特定施設入居者生活介護の食事提供に係る消費税

介護

今回は特定施設入居者生活介護の食事提供に係る消費税についてです。

まず、特定施設入居者生活介護とは何ぞやと言う事ですが、定義として、特定施設入居者生活介護とは利用者が可能な限り自立した日常生活を送ることができるよう、食事や入浴などの日常生活上の支援や、機能訓練などを提供することを言います。

具体的には、この指定を受けた有料老人ホームや軽費老人ホーム・養護老人ホームなどが該当します。
例えば有料老人ホームの場合には、「介護付有料老人ホーム」と名乗ることができます。
今回は、この介護付有料老人ホームの食事代について、某税務週刊誌で消費税が課税となるという記事がありましたので検証をしてみました。

1.介護サービスに係る消費税

 消費税法第六条第一項には消費税法別表第一に掲げるものには消費税を課さないとあり、別表第一第7号イにおいて、介護保険法における以下のサービスについて非課税にすると記されています。

<消費税法別表第一>(非課税になる規定)
七 次に掲げる資産の譲渡等(前号の規定に該当するものを除く。)
イ 介護保険法(平成九年法律第百二十三号)の規定に基づく居宅介護サービス費の支給に係る居宅サービス(訪問介護、訪問入浴介護その他の政令で定めるものに限る。)、施設介護サービス費の支給に係る施設サービス(政令で定めるものを除く。)その他これらに類するものとして政令で定めるもの

分解すると次の三つの区分となります。

(1)居宅介護サービス費の支給に係る居宅サービス(訪問介護等、その他政令で定めるもの限定)
(2)施設介護サービス費の支給に係る施設サービス(政令で定めるものを除く)
(3)その他これらに類するものとして政令で定めるもの

このうち、特定施設入居者生活介護は(1)の居宅介護サービスに該当します。(消費税法施行令第十四条の二)

<消費税法施行令>
(居宅サービスの範囲等)
第十四条の二 法別表第一第七号イに規定する政令で定める居宅サービスは、介護保険法(平成九年法律第百二十三号)第八条第二項から第十一項まで(定義)に規定する訪問介護、訪問入浴介護、訪問看護、訪問リハビリテーション、居宅療養管理指導、通所介護、通所リハビリテーション、短期入所生活介護、短期入所療養介護及び特定施設入居者生活介護(第三項第一号及び第十三号において「訪問介護等」といい、特別の居室の提供その他の財務大臣が指定する資産の譲渡等を除く。)とする。

ちなみに、特定施設入居者生活介護に該当せず、介護付きでない単なる有料老人ホームを利用されている方は家賃及び入居一時金(前払い分として家賃に充当されるもの)以外は消費税課税となります。

 次に、財務大臣が指定する資産の譲渡等についてはサービスの種類により分かれており、特定施設入居者生活介護については消費税法基本通達6-7-1(1)ヌのカッコ書きにより次に掲げる資産の譲渡等が課税に該当することになります。

<消費税法基本通達>
(介護保険関係の非課税の範囲)
6-7-1 法別表第一第7号イ《非課税となる介護保険に係る資産の譲渡等》の規定による介護保険関係の非課税範囲は次のようになるのであるから留意する。
(1) 介護保険法の規定に基づく居宅介護サービス費の支給に係る居宅サービス
ヌ 有料老人ホーム、養護老人ホーム及び軽費老人ホーム((4)トに該当するものを除く。 )に入居している要介護者について行う特定施設入居者生活介護(要介護者の選定により提供される介護その他の日常生活上の便宜に要する費用を対価とする資産の譲渡等を除く。)

「利用者の選定により提供される介護その他の日常生活上の便宜に要する費用」
(基準省令128➂一) 

この基準省令128➂一については具体的に厚生省老健局課長通知(老企第52号・平成12年3月30日)によって限定列挙されています。大枠で記載すると以下の2通りになります。

(1)人員配置が手厚い場合の介護サービス利用料
 「要介護者等の人数に応じて看護・介護職員の人数が一定数を超えている場合には、人員配置が手厚い場合の介護サービス利用料を受領できるものとする。」

(2)個別的な選択による介護サービス利用料
 「あらかじめ特定施設入居者生活介護として包括的かつ標準的に行うものとして定めた介護サービスとは別に、利用者の特別な希望により行われる個別的な介護サービスについては、その利用料を受領できるものとする。」

 具体的には以下の個別性の強いものに限定されています。

➀ 個別的な外出介助(利用者の特別な希望による旅行等の介助や買い物など)
➁ 個別的な買い物等の代行(遠方への買い物等)
➂ 標準的な回数を超えた入浴を行った場合の介助

 逆に、非課税とされる部分は以下の通りです。上記と同じく消費税法基本通達6-7-1(1)ヌにより、基準省令182➂二と三が該当します。

「おむつ代」
「その他特定施設入居者生活介護において提供される便宜のうち、日常生活においても通常必要となるものに係る費用であって、その利用者に負担させることが適当と認められるもの」(基準省令182➂二、三)

ここで言う、日常生活上の便宜に要する費用とは、「利用者の希望によって、身の回り品として日常生活に必要なものを事業者が提供する場合にかかる費用」であり、「身の回り品として日常生活に必要なもの」とは、要介護者等の日常生活に最低限必要と考えられる物品(歯ブラシや化粧品等の個人用の日用品)であって、利用者等の希望を確認した上で提供されるものです。(平成12年3月30日 老企第54号)
 ちなみに、この物品を事業者や施設がすべての利用者に対し一律的に提供し、その費用を画一的に徴収することは認められないとされています。そもそも介護サービスとしては認めないと言う事ですね。

 以上列挙してきましたが、上記課税非課税を見比べましても食事の提供については一切記載がありません。

2.他の居宅サービス
 では、他の居宅サービスはどうなっているのでしょうか。介護保険法では居宅サービスを以下のように区分しています。

<介護保険法>
第八条 この法律において「居宅サービス」とは、訪問介護、訪問入浴介護、訪問看護、訪問リハビリテーション、居宅療養管理指導、通所介護、通所リハビリテーション、短期入所生活介護、短期入所療養介護、特定施設入居者生活介護、福祉用具貸与及び特定福祉用具販売をいい、「居宅サービス事業」とは、居宅サービスを行う事業をいう。

 でもって、介護保険法第四十一条で該当するサービスについては居宅介護サービスを支給するとあります。

第四十一条 市町村は、要介護認定を受けた被保険者(以下「要介護被保険者」という。)のうち居宅において介護を受けるもの(以下「居宅要介護被保険者」という。)が、都道府県知事が指定する者(以下「指定居宅サービス事業者」という。)から当該指定に係る居宅サービス事業を行う事業所により行われる居宅サービス(以下「指定居宅サービス」という。)を受けたときは、当該居宅要介護被保険者に対し、当該指定居宅サービスに要した費用(特定福祉用具の購入に要した費用を除き、通所介護、通所リハビリテーション、短期入所生活介護、短期入所療養介護及び特定施設入居者生活介護に要した費用については、食事の提供に要する費用、滞在に要する費用その他の日常生活に要する費用として厚生労働省令で定める費用を除く。以下この条において同じ。)について、居宅介護サービス費を支給する。ただし、当該居宅要介護被保険者が、第三十七条第一項の規定による指定を受けている場合において、当該指定に係る種類以外の居宅サービスを受けたときは、この限りでない。

 では、その支給するサービスはというと、これも介護保険法施行規則に記載があります。

<介護保険法施行規則>
(日常生活に要する費用)
第六十一条 法第四十一条第一項並びに第四項第一号及び第二号並びに第四十二条第三項の厚生労働省令で定める費用は、次の各号に掲げる居宅サービスの種類の区分に応じ、当該各号に定める費用とする。

一 通所介護及び通所リハビリテーション
  次に掲げる費用
 イ 食事の提供に要する費用
 ロ おむつ代
 ハ その他通所介護又は通所リハビリテーションにおいて提供される便宜のうち、日常生活においても通常必要となるものに係る費用であって、その利用者に負担させることが適当と認められるもの

二 短期入所生活介護及び短期入所療養介護 
  次に掲げる費用
 イ 食事の提供に要する費用
 ロ 滞在に要する費用
 ハ 理美容代
 ニ その他短期入所生活介護又は短期入所療養介護において提供される便宜のうち、日常生活においても通常必要となるものに係る費用であって、その利用者に負担させることが適当と認められるもの

三 特定施設入居者生活介護 
  次に掲げる費用
 イ おむつ代
 ロ その他特定施設入居者生活介護において提供される便宜のうち、日常生活においても通常必要となるものに係る費用であって、その利用者に負担させることが適当と認められるもの

通所介護や通リハ、短期入所生活介護、短期入所療養介護には食事の提供に要する費用がありますが、特定施設入居者生活介護については記載がありません。
つまり、居宅サービスには該当しないと言う事になります。

3.結論
 上記に掲げた通り、消費税法での介護サービスにおける課税・非課税となる対象取引はいずれも限定列挙されており、特定施設入居者生活介護に係る食事の提供についてはいずれにも記載されておりません。
 念のため厚労省老健局高齢者支援課に確認した所、特定施設入居者生活介護での食事の提供は居宅サービスには該当しないとのことで、介護保険法や基準省令のいずれにも該当しなく、有料老人ホームのサービス(老人福祉法第29条)として食事の提供があるという事でした。

<老人福祉法>
第二十九条 有料老人ホーム(老人を入居させ、入浴、排せつ若しくは食事の介護、食事の提供又はその他の日常生活上必要な便宜であつて厚生労働省令で定めるもの(以下「介護等」という。)の供与(他に委託して供与をする場合及び将来において供与をすることを約する場合を含む。)をする事業を行う施設であつて、老人福祉施設、認知症対応型老人共同生活援助事業を行う住居その他厚生労働省令で定める施設でないものをいう。以下同じ。)を設置しようとする者は、あらかじめ、その施設を設置しようとする地の都道府県知事に、次の各号に掲げる事項を届け出なければならない。

 ちなみに同じ特定施設入居者生活介護でも、軽費老人ホームや、養護老人ホームなどは同じ老人福祉法に規定されながら「社会福祉事業」の位置づけになり、社会福祉法第二条に規定する社会福祉事業(第一種)に該当するため、消費税は非課税となります。(消費税法別表第一第7号ロ)

<消費税法別表第一>(非課税になる規定)
七 次に掲げる資産の譲渡等(前号の規定に該当するものを除く。)

ロ 社会福祉法第二条(定義)に規定する社会福祉事業及び更生保護事業法(平成七年法律第八十六号)第二条第一項(定義)に規定する更生保護事業として行われる資産の譲渡等(社会福祉法第二条第二項第四号若しくは第七号に規定する障害者支援施設若しくは授産施設を経営する事業、同条第三項第一号の二に規定する認定生活困窮者就労訓練事業、同項第四号の二に規定する地域活動支援センターを経営する事業又は同号に規定する障害福祉サービス事業(障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律第五条第七項、第十三項又は第十四項(定義)に規定する生活介護、就労移行支援又は就労継続支援を行う事業に限る。)において生産活動としての作業に基づき行われるもの及び政令で定めるものを除く。)

<社会福祉法>
第二条 この法律において「社会福祉事業」とは、第一種社会福祉事業及び第二種社会福祉事業をいう。
次に掲げる事業を第一種社会福祉事業とする。

三  老人福祉法 (昭和三十八年法律第百三十三号)に規定する養護老人ホーム、特別養護老人ホーム又は軽費老人ホームを経営する事業

 入居施設によって、サービスが同じであるにもかかわらず課税非課税が分かれてしまう結果となるのは課税の公平の観点からも納得が行きませんが、現状ではこのような結論となっています。







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