今回は医療機関債についてです。
医療法人の場合、資金調達というと主に金融機関からの借入をイメージされますよね。
実際、ほとんどの医療法人は資金調達をする場合、銀行又は信用金庫等から借り入れをされていると思います。
一方、医療経営の在り方について経営の安定性を高める方策の一つとして、資金調達手段としての医療機関債の発行を円滑化及び適正な発行を可能にできるよう、ガイドラインの制定がなされています。(平成16年10月)
さらにその後、規制・制度改革に係る方針が閣議決定され(平成23年4月8日)、医療法人が他の医療法人に医療機関債を通じて剰余金配当禁止規定に反することなく融資等を行うことを認めるルールを定めることによりガイドラインが改訂されています。(平成25年8月9日)
このガイドラインにより、昔よりは医療機関債について理解がしやすくなりました。ただし、利用しやすいかどうかは別ですね。過去には詐欺事件もありましたし、仕方ないのかもしれません。
ですから、今回はこんなものもあるのかというネタ的なお話になります。
ちなみに、このガイドラインを遵守しない場合には、医療機関債発行停止などの改善命令が出される場合もありますので注意が必要です。
では、順番に見ていきましょう。
1.医療機関債の定義
(1)民法上の消費貸借として行う金銭の借入を証する目的で作成する証拠証券である
早い話が金銭消費貸借契約に基づく証券ですよと言うことで、直接金融か間接金融かというだけで、金融機関からお金を借りるのと同じですね。
(2)医療機関債は金融商品取引法第2条に規定する有価証券ではない
講学上の有価証券には該当するが金融商品取引法には該当しませんよと言うことで、例えば、小切手、約束手形、為替手形と同じカテゴリーではあるが、金融商品取引法と比べ提出書類が緩く、かつ同法よりは厳密な扱いは受けません。
ちなみに社会医療法人債は金融商品取引法に該当しますので、例えば監査は必ず行わなければならないなど、医療機関債より発行のハードルは高くなります。
2.遵守すべき事項
(1)医療機関債を発行できる医療法人
➀ いわゆる「出資法」、「医療法」等に抵触しない事。
出資法とは、「出資の受け入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律(以下「出資法」という。)」の事で、この出資法には以下のように記されています。
昭和二十九年法律第百九十五号
出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律
(出資金の受入の制限)
第一条 何人も、不特定且つ多数の者に対し、後日出資の払いもどしとして出資金の全額若しくはこれをこえる金額に相当する金銭を支払うべき旨を明示し、又は暗黙のうちに示して、出資金の受入をしてはならない。(預り金の禁止)
第二条 業として預り金をするにつき他の法律に特別の規定のある者を除く外、何人も業として預り金をしてはならない。
2 前項の「預り金」とは、不特定かつ多数の者からの金銭の受入れであつて、次に掲げるものをいう。
一 預金、貯金又は定期積金の受入れ
二 社債、借入金その他いかなる名義をもつてするかを問わず、前号に掲げるものと同様の経済的性質を有するもの
出資金額を超える払い戻しの約束をしてはダメよ。あと、医療法人なんだから業としても行っちゃダメよという内容ですね。
➁ 公認会計士又は監査法人による監査を受けること
下記要件に抵触する医療法人は医療機関債を発行するにあたり、公認会計士若しくは監査法人による監査を受けることとされています。
ⅰ 受けなくてはいけない法人
負債総額100億円以上(医療機関債発行分を含む。)又は一会計年度における発行総額が1億円以上か購入人数が50人以上である場合
ちなみに負債が100億円以上ある医療法人は医療機関債発行にかかわらず、監査あるいは指導を受けることが望ましい医療法人とされています。
また、上記にかかわらず医療機関債を発行する医療法人は、公認会計士又は監査法人による監査を受けることが望ましいとされています。
(2)借入金として明確化する
借入の使途が限定されています。すなわち医療機関債は、発行医療法人が資産の取得目的のためにのみ発行できるとされています。そして金銭消費貸借契約に基づく借入金である旨を発行目的や対象等とあわせて明確に定め、発行対象者に周知しなくてはなりません。
(3)内部手続き
発行医療法人側は借入金に該当しますので、理事会及び社員総会の決議(財団医療法人の場合は社員総会ではなく評議員会)を行わなければなりません。
(4)発行要項等
文字で書くよりは(のは大変なので)要項を見ていただいた方が分かりやすいかと思いますので、下記リンクをご覧ください。
<医療機関債発行要項>
http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/isei/igyou/igyoukeiei/dl/houkokusho2_0016.pdf
(5)発行条件等
➀ 利率等
利率等の条件は一回の発行につき同一でなくてはならず、一般の購入者と医療法人の役員及びその同族関係者との間で、差異を設けてはいけません。
他には発行予定日2か月前発表の新発長期国債利回りに1%を上乗せしたものを標準利率とするなどの縛りがあります。
➁ 購入対象者や勧誘方法
医療機関債の購入対象者は、発行法人の役職員、地域住民、他の医療法人等です。
また、勧誘については医療法人自らが行うことを原則とし、委託してはダメです。
(銀行に対する勧誘は委託可)
➂ 譲渡制限
購入人数が49人以下の医療機関債は譲渡、贈与、寄付は原則禁止されています。ただし、医療機関債の保有者が一括で一人に対し譲渡する場合はOKです。この場合にも発行医療法人の理事会承認を得ていることが望ましいです。
(6)その他
➀ 診療差別の排除
発行医療法人が同法人の病院等の内部に医療機関債の発行要項等を掲示しても構わないが、医療法人を利用する患者・家族等に対し医療機関債の購入を強制したり、若しくは強制しているとの誤解を受けてはいけません。
また、利子の支払いの他、おまけ(経済的利益)を付与する場合には健康保険法その他法令の規定に基づく医療に係るものであってはならないとされています。「診察した分をサービスします」はダメですということですね。
➁ 経営介入の排除
医療機関債の購入をしたから医療法人の経営に携われる、または携わらせろというものではありません。
➂ 決算期毎に情報を開示
医療法人は事業報告書等を各事務所に備え置き、請求があった場合には閲覧に応じなければなりませんが、医療機関債発行医療法人はこれに加えて、医療機関債の資金の使途又は取得した資産の状況、直近3会計年度の財務状況を記載した書類についても毎年作成し、決算期ごとに債権者に対して情報提供をしなければなりません。
ちなみにこの開示はホームページ上で公開しても構いません。
3.医療機関債を購入する医療法人について
今度は購入する医療法人側の話です。
と言っても以下の条件を全て満たした場合にのみ、医療機関債を購入することがされています。
➀ 保有できる医療機関債は償還期間が10年以内で、一つの医療法人が発行するもの。
➁ 同一の医療法人が発行する新たな医療機関債については、保有する医療機関債の償還が終了してから1年が経過するまでの間は購入できない。
➂ 医療機関債を購入する医療法人は、医療機関債を発行する同一の二次医療圏内に自らの医療機関を有していて医療連携を行っており、このことにより医療機関としての機能が維持・向上できる。
➃ 医療機関債を購入する前年度の貸借対照表上の総資産額に占める純資産の割合が20%以上である。
➄ 医療機関債の購入額は④の純資産額を超えず、かつ1億円未満である。
➅ 医療機関債の購入に際し、理事会及び社員総会の決議を行わなければならない。(財団医療法人の場合には社員総会ではなく評議員会)
➆ 保有する医療機関債に関する情報を事業報告書に記載しなければならない。
なかなか厳しいですが、医療法人は医療法第54条に基づき医療法人は剰余金の配当に当たる行為は認められておりませんので、結果的に医療法人からの資金流出となってしまう可能性がある行為は認めないよと読めます。
いかがでしたでしょうか。この内容がすべてを網羅しているとは言えませんが、医療機関債とはどんなものなのかはご理解いただけるのではないかと思います。
使い勝手は正直(良くない)微妙かと思いますが、地域住民に法人を理解してもらう、地域住民と一体感を持ってもらうため、そして地域皆の病院だと認識してもらうために発行している法人もあります。
病院建替え等の資金繰りの方策としての選択肢にはなるかなと思います。
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