障害福祉・障害児福祉計画 基本指針の見直し

施策

令和7年9月25日に社会保障審議会障害者部会(第149回)が行われました。

これは、国の障害福祉に関する「3年間の大方針」を定める重要なルールブック(基本指針)が、令和9年度(2027年度)からの次期計画に向けてどのように変わるか、という議論の内容です。

社会保障審議会障害者部会(第149回)の資料について

社会保障審議会障害者部会(第149回)の資料について

障害福祉の「大方針」見直しとは? 3つの重要ポイント

まず、この基本指針が何であり、なぜ重要なのかを簡単にご説明します。

1. 「基本指針」は地方自治体のための「ルールブック」

「基本指針」とは、厚生労働大臣が定める、全国の市町村や都道府県が障害福祉計画を作成するためのガイドラインです。

この指針は、障害者総合支援法などに基づき、次の3年間(令和9年度から11年度まで)で、地域にどのようなサービス提供体制を確保し、スムーズに福祉サービスを実施するかという基本的な考え方、目標、そして計画の作り方を定めています。

この指針が変われば、私たちが住む地域の障害福祉サービスの提供のあり方が変わる、ということです。

2. 議論の焦点は「成果目標」と「新しい課題への対応」

今回の見直しでは、現行の指針(第7期・第3期計画向け)の内容を確認しつつ、削除すべき点や、近年の社会情勢の変化(例:人口減少、虐待問題、法改正)を踏まえて新しく追加すべき項目がないか、が議論されています。

特に重要な要素は以下の二つです。

  • 成果目標(具体的なゴール):施設から地域への移行者数など、国として達成を目指す具体的な数値目標。これが見直されます。
  • 活動指標(進捗を確認する指標):目標達成のために、定期的に状況を確認すべき指標(例:協議会の開催回数、支援担当者の配置数)。

3. スケジュール:令和8年3月に新しいルールが告示される

この議論は現在進行中ですが、令和8年3月には新しい基本指針が正式に国から告示される予定です。


今後の障害福祉を形作る!13の主要な見直しポイント

議論されている13の具体的な検討事項は、すべて次期計画において自治体が力を入れるべき分野を示しています。

【Ⅰ.地域生活への移行と連携の強化】

  1. 施設入所から地域生活への移行推進の徹底
    • 引き続き、施設入所者を減らし、地域生活への移行者数を増やすという目標値を設定します。
    • 国庫補助金(国の予算)についても、この目標と整合性のとれた地域整備に重点的に使うよう、計画作成の必要性が記載されます。
    • グループホームなどの地域での受け皿整備や、本人の意思決定支援の重要性も強調されます。
  2. 精神障害にも対応した地域包括ケアシステムの明確化
    • 令和4年の法改正を踏まえ、精神障害の有無に関わらず、地域で「保健」「医療」「福祉」「住まい」「就労」が包括的に提供される体制を明確にします。
  3. 福祉施設から一般就労への移行(「就労選択支援」の導入)
    • 令和7年10月から始まる新しいサービス「就労選択支援」の体制確保が盛り込まれます。これは、障害のある人が本人の能力や希望に合った仕事を選択できるよう支援する仕組みです。
    • この事業所を地域にどれだけ設置できたかを測る、新しい成果目標が提案されています。
  4. 相談支援体制の充実と「セルフプラン」の解消
    • 相談支援の中心となる基幹相談支援センターの設置を、小規模な自治体も含めて一層推進します。
    • 専門家が関与せず、本人や家族が不本意に作成する「セルフプラン」をなくすため、相談支援専門員(ケアマネジャー)の計画的な養成を強化します。

【Ⅱ.サービスの質、人材、持続性の確保】

  1. 障害福祉人材の確保・定着と「生産性向上」
    • 人材確保が非常に重要な課題であるため、質の高いサービスを効率的に提供するための「生産性向上」を基本指針の新しい柱として記載します。
    • 介護テクノロジー(ロボット、ICTなど)の導入、手続き負担の軽減、事業者間の連携を進め、職員が直接ケアに集中できるようにします。
  2. 人口減少地域におけるサービスの維持・確保
    • 中山間地域や人口減少地域など、サービスの維持が難しい地域で、共生型サービス(高齢者も障害者も利用できるサービス)や多機能型事業所など既存の制度を活かして、サービスを途切れさせない取り組みを盛り込みます。
  3. 障害福祉サービスの質の確保と監査の強化
    • 新規参入事業者が増える中、サービス提供の質を確保するため、グループホームや就労継続支援事業所に関するガイドラインを策定予定です。
    • 利用者のサービス選択に資する情報公表制度の徹底に加え、近年急増する営利法人の事業所について、運営指導・監査の強化の重要性が明記されます。

【Ⅲ.専門的なニーズと権利擁護への対応】

  1. きめ細かい地域ニーズを踏まえた支援体制の整備
    • 強度行動障害、医療的ケア児者、発達障害など、専門性の高い支援を引き続き強化します。
    • 都道府県が事業所を指定する際に、市町村が地域の実情に基づき意見を述べられる「意見申出制度」(R6年度導入)の活用を促します。
    • 手話施策推進法の成立を踏まえ、手話通訳者などの意思疎通支援者の養成、特に若年層の確保の重要性を盛り込みます。
  2. 障害者等に対する虐待の防止と意思決定支援の推進
    • 虐待の通報や死亡事例の増加を踏まえ、自治体による事実確認調査や重篤事例の検証を徹底します。
    • 意思決定支援ガイドラインに基づき、サービス計画を話し合う会議(サービス担当者会議)などに本人が同席することを徹底するなど、本人の意思を尊重する取り組みを一層推進します。

【Ⅳ.社会的な連携と基盤整備】

  1. 「地域共生社会」の実現に向けた取組
    • 親亡き後の生活など、複雑で複合的な課題に対応するため、「重層的支援体制整備事業」など、福祉分野を超えた包括的な支援体制の整備を推進します。
  2. 住宅セーフティネット制度との連携
    • グループホームなどの居住に関するサービス提供が、住宅セーフティネット法の目標と調和するよう、自治体の住宅担当部局や居住支援協議会との連携が求められます。
  3. 災害時における障害福祉サービス提供の確保
    • 災害対策基本法の改正を踏まえ、災害時に障害者等の要配慮者へサービスが提供されるよう、福祉避難所の指定避難者名簿の作成について、地方自治体の防災部局と連携することを盛り込みます。
  4. 障害福祉サービスの地域差の是正・指定の在り方
    • 障害福祉サービスの供給における地域差を是正するための方策について引き続き議論します。
    • 特に、グループホーム(共同生活援助)について、地域の実態や移行状況を踏まえ、事業所の数を制限する「総量規制」も含めた指定のあり方を検討します。

成果目標の具体的な変更案(精神科医療の目標変更)

成果目標についても、より実態に即した測定を行うための変更が提案されています。特に注目すべきは精神科医療に関する目標です。

  • 精神病床の「早期退院率」の廃止と「再入院率」への変更
    • これまで「3か月後の早期退院率」などが目標とされていましたが、これは廃止され、代わりに「退院患者の精神病床への1月を超える再入院率」(90日後、180日後、365日後)が新たな目標となる案が示されています。これは、ただ早く退院させるだけでなく、地域で安定して生活できているかという視点を重視する方針への転換を意味します。
  • 「就労選択支援事業所の設置状況」の新規追加
    • 前述の通り、新しい就労支援サービスの提供体制確保が、目標として明確に追加されます。

これらの議論を経て、新しい基本指針が策定されることで、令和9年度以降の障害福祉の方向性が定まります。この見直しは、障害のある方々がより自分らしく、地域で安心して暮らせる社会を実現するための重要な一歩と言えます。

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