令和2年度税制改正大綱ー抜粋ー

税制

令和元年12月20日に税制改正大綱が閣議決定されました。

医療業界の税制については大きな改正はないですが、関連事項を記載していきます。

目次

1.認定医療法人制度の延長

良質な医療を提供する体制の確立を図るための医療法等の一部を改正する法律の改正を前提に、医業継続に係る相続税・贈与税の納税猶予制度等の適用期限を3年間延長する。

今回の医療業界の中ではおそらく一番の注目項目(延長)。延長がなければ令和2年9月30日で終了となる予定でしたが、3年間延長となったために令和5年9月30日まで存続となる見込みです。ちなみに医師少数区域等における特例措置(認定医療法人制度の3年以内に持分なしに移行を、長期にわたる猶予期間後に持分なしへ移行するもの。)の新設要望は却下されています。

2.中小企業者等の少額減価償却資産特例

中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例について、次の見直しを行った上、その適用期限を2年延長する(令和4年3月31日まで延長)。

① 対象法人から連結法人を除外する。

② 対象法人の要件のうち常時使用する従業員の数の要件を500人以下(現行:1,000人以下)に引き下げる。

中小企業者等とは資本金1億円以下の法人で、大規模法人に資本支配されていない常勤従業員が1,000人以下の法人をいいます。取得価額30万円未満の減価償却資産で、一事業年度当たり300万円未満まで取得価額を全額損金算入できる制度です。今回、適用要件について人数制限を1,000人から500人に下げられました。

3.交際費課税

(1)交際費等の損金不算入

交際費等の損金不算入制度について、その適用期限を2年延長するとともに、接待飲食費に係る損金算入の特例の対象法人からその資本金の額等が100億円を超える法人を除外した上その適用期限を2年延長する。(令和4年3月31日まで延長)

中小企業(資本金・出資金1億円以下の法人)以外には交際費の損金算入が認められていませんでしたが、平成26年改正において接待飲食費の50%まで損金算入が認められるようになった制度です。今回、延長にはなりましたが、資本金額等が100億円超の大企業については対象外とされています。理由としては大企業が思ったより接待飲食費を使っていないと国が判断したためです。

 ちなみに、持分なし医療法人(認定医療法人を含む。以下同じ。)については「出資金」という概念はありません。そのため、交際費課税制度に関する計算については、法人税法で「出資の金額に準ずる額」が定められており、この金額を出資金額とみなし中小法人か否か判定します。

<出資の金額に準ずる額>

(期末総資産簿価―期末総負債簿価―当期利益(または+当期損失))×60%

つまり、毎年利益が積み重なり、大まかに言うと純資産価額が1.6億円程度を超えると下記「中小企業に係る交際費の損金算入」制度が使えなくなります。

医療法人の場合、持分なし医療法人や基金拠出型医療法人、社会医療法人、特定医療法人等がこの算式にて算定することになりますので、配当が出来ない医療法人等については、利益を出し続けた場合、いずれ接待交際費50%損金算入制度のみの適用になってしまいます。将来的にまた資本金額等の基準を下げられてしまう※と交際費は損金にならない可能性があります。


 ※国税庁会社標本調査によると、資本金1億円超の黒字企業が使う年間交際費は1社あたり3,750万円。そのうち600万円程が損金算入。(つまり大した減税ではない)資本金500万円~1,000万円以下の黒字企業の年間交際費は1社あたり270万円と大企業の10分の1以下と少ない。つまり無くなる可能性あり。

(2)中小企業に係る交際費課税

交際費等の損金不算入制度について、その適用期限を2年延長するとともに、中小法人に係る損金算入の特例の適用期限を2年延長する。(令和4年3月31日まで延長)

上記(1)の続きになりますが、中小企業(資本金・出資金1億円以下の法人)については、一事業年度当たり800万円まで交際費は損金算入できます。これが延長になりました。医療法人の場合、持分あり医療法人で出資金1億円以下の法人と、上記出資の金額に準ずる額により1億円以下となった法人のみ適用があります。ちなみに(1)の接待交際費50%までの損金算入制度と選択適用することができます。

4.法人に係る消費税の申告期限の特例の創設

法人に係る消費税の確定申告書の提出期限について、次の措置を講ずる。

法人税の確定申告書の提出期限の延長の特例の適用を受ける法人が、消費税の確定申告書の提出期限を延長する旨の届出書を提出した場合には、当該提出をした日の属する事業年度以後の各事業年度の末日の属する課税期間に係る消費税の確定申告書の提出期限を1月延長する。(令和3年3月31日以後に終了する事業年度の末日の属する課税期間から適用)

(注)確定申告書の提出期限が延長された期間の消費税の納付については、当該延長された期間に係る利子税を併せて納付する。

法人税は従前から申告期限の延長が認められていましたが、消費税は認められていませんでした。そのため、消費税申告後、申告期限の延長を提出していた法人税について、税額を最終的に確定させる場合、消費税額にズレが出てしまい、修正申告又は更正の請求を行うケースがありました。他には消費税の申告そのものを忘れてしまい、無申告加算税や延滞税を課されるケースもありました。今後は届出書を提出すれば1月以内に限り法人税と同一申告を行うことが出来る様になります。(ちなみに一定の法人の法人税の場合には最大4月以内の申告延長が可能)

医療法人の場合には、小規模以外の社会医療法人や大規模医療法人に法定監査が義務付けられているため、この改正は有利に働く可能性が高いです。ただし、実務上は2月以内で申告書を作成し見込み納付後、手直しせずに3月以内に提出しているケースが多数です。

これは申告期限の延長の届出を提出していても利子税は課されてしまうためです。ちなみに利子税、還付加算金等の割合についても年1%から0.5%に引き下げられることになりました。(細かい算式は省略します。)

5.認可外保育施設の消費税非課税

消費税が非課税とされる社会福祉事業等の範囲に、1日当たり5人以下の乳幼児を保育する認可外保育施設のうち一定の基準を満たすものとして都道府県知事等から当該基準を満たす旨の証明書の交付を受けたものにおいて行われる保育を加える。(令和2年10月1日以後適用。)

認可保育施設と認可外保育施設で認可外保育施設指導監督基準を満たすもので都道府県知事等から証明書の交付を受けた施設の利用料については消費税が非課税とされていますが、これに上記内容が追加されました。

 非課税とされている利用料の範囲は「保育料(延長保育等含む)」、「年会費」、「入園料」、「送迎料」、「その他保育に必要不可欠なもの(給食費、おやつ代、教材費、施設費等)」です。一方、付加的なサービス(おむつサービス、習い事の講習料等)については課税となります。

 ちなみに医療法人が消費税の非課税保育施設を運営すると、非課税収入に対応する費用にかかる消費税額を消費税の計算上、控除できなくなる可能性が出てきますので注意が必要です。

6.事業税における社会保険診療報酬(検討事項)

事業税における社会保険診療報酬に係る実質的非課税措置及び医療法人に対する軽減税率については、税負担の公平性を図る観点や、地域医療の確保を図る観点から、そのあり方について検討する。

毎年検討事項にあがる内容。保険診療部分非課税と税率が軽減されていることについての優遇措置についての検討。廃止要望として挙がっているので載せている。個人的には保険診療は経営者に価格裁量がないので現状維持してほしい項目です。

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